研修03_身体拘束がもたらす多くの弊害

2021.04.19
2024.03.25
16:34
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目次
    身体拘束がもたらす多くの弊害
      身体拘束は本当になくせないのか
        身体拘束廃止に向けてなすこと 5つの方針
          身体拘束をせずに行うケア  3つの原則
            緊急やむを得ない場合の対応
              転倒事故などの法的責任についての考え方

                身体拘束がもたらす多くの弊害

                現在介護保険法のもと、介護サービスを行う事業所での身体拘束は原則禁止されています。身体拘束は多くの弊害をもたらすことが理由ですが、大きく分けて3つの弊害があります。

                1.身体的弊害

                拘束により本人の関節の拘縮、筋力の低下などの身体機能の低下や拘束時に圧迫される部位の褥瘡発生などの外的弊害をもらたします。

                これらを原因として二次的に食欲の低下、心肺機能の低下、感染症への抵抗力の低下などの内的弊害をもたらします。

                車いすに拘束されている場合では、拘束に対し抵抗する形での無理な立ち上がりによる転倒事故や、ベッド柵による拘束の場合は、これを乗り越えようとしての転落事故、更には拘束具による窒息などの大きな事故につながることもあります。

                2.精神的弊害

                拘束されることにより不安、怒り、屈辱、あきらめといった大きな精神的苦痛を与えてしまいます。ひいては人間としての尊厳も傷つけることになります。

                これらの影響で認知症が進行してしまい、場合によってはせん妄を頻発させてしまうこともあります。

                また、精神的弊害は拘束されている本人にとどまらず、家族に与える影響も無視できません。自らの親や配偶者が拘束されている姿を見ることで混乱や後悔、罪悪感に苛まれる家族も多くおられます。

                拘束する側のスタッフも、自らのケアに自信が持てなくなり安易な拘束をくりかえすことでケアに対する士気も下がっていきます。

                3.社会的弊害

                身体拘束を行うことは、介護に関わる事業者すべてに対する社会的な信用を失墜させてしまう原因となりかねません。また拘束されている本人のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を低下させるだけでなく、心身機能を低下させてしまうことから発生する医療的処置や介護の重度化を発生させてしまうことから、経済的にも弊害を発生させてしまいます。

                身体拘束は本当になくせないのか

                現在介護保険事業所での身体拘束は原則禁止されています。例外的に認められるケースとして本人及び他者の生命身体に重大な危険がある場合で、他に有効な対応方法がなく、一時的な拘束を行うことがあります。過去には身体拘束を行う主な理由として、スタッフ不足のために十分な見守りができず安全な対応ができないというものがありましたが、当時と変わらないスタッフ数で現在は拘束していない施設も多数あります。このことからも対応方法と環境の整備によりスタッフ数を増やさなくても身体拘束を廃止することは十分可能であると考えられます。

                一例ですが、食事介助のときにスタッフ数が足りなければ食事時間を長く設定して自力で食事できる方を増やすようにしてみたり、シーツ交換に時間がかかり見守りスタッフ数が足りないのであればシーツ交換が簡単にできるシーツに変えることもよいでしょう。ベッドからの転落に対応が難しければベッドの高さを大幅に下げると同時に万一転落しても安全な柔らい床とするなどの環境を整備することも良い対策です。

                認知症の行動・心理症状により本人や他者に危険がある場合でもスタッフによる十分な見守りと日常の環境や本人との関わり方を見直すことで行動・心理症状を和らげることも十分可能です。これらのことから身体拘束を無くすことは十分に可能であるといえます。

                身体拘束廃止に向けてなすこと 5つの方針

                身体拘束を廃止することは決して簡単なことではありません。しかし事業所全体で強い意志をもって取り組めば実現することは十分可能です。そのために必要な項目として次の5つの方針が挙げられます。

                1.トップが決意し、事業所が一丸となって取り組む

                身体拘束を廃止することは、現場のスタッフだけで取り組んでもうまくいきません。例えば身体拘束を廃止したために発生した事故やトラブルというものも起こり得ます。このような事態が発生したときは施設長などのトップ自らが責任を引き受けるということを明確にしたうえで、現場が安心して身体拘束廃止に取り組むことが重要です。そのうえでトップと現場スタッフのみならず、看護職員や事務職員も巻き込み事業所全体で取り組み、互いに協力しあうことで現場スタッフも安心して身体拘束廃止を行っていくことができるようになります。

                2.みんなで議論して共通意識をもつ

                現在、介護保険法には施設などの事業所に「身体拘束廃止委員会」を設置することが義務付けられています。この委員会は現場スタッフに限らず施設長や看護師、ケアマネージャーなどの多職種で構成されることが求められています。これらの多職種で構成された委員会で各々の立場から身体拘束廃止を実現させるために必要なことや懸念点などを積極的に話し合うようにします。

                これは通常、直接サービス提供をするスタッフしか利用者と接点を持つことのない訪問介護などの在宅系サービスであっても同じです。場合によっては家族が利用者の身体拘束をしている可能性もあり得ます。確認できた状況を事業所に持ち帰り、多職種と話し合うことでどのように対応すべきかや、場合によってはケアマネージャーを交えて家族と話し合うことなども必要になるかもしれません。

                前述のとおり身体拘束が家族にも悪影響を与えてしまうということを考えれば、身体拘束廃止することにより発生するリスクなどについても十分な説明が必要になりますし場合によっては協力をお願いすることもあるかもしれません。あらゆる点から身体拘束廃止について議論して、事業所としての方向性を確立して、この方向性はみんなで共通認識として共有することが必要です。

                3.まず、身体拘束を必要としない状態の実現をめざす

                身体拘束してしまう状況を確認すると、高齢者の行動・心理症状(BPSD)が原因となっていることが多いと思われます。行動・心理症状には何らかの原因がありますので、これらの原因を取り除くことで行動・心理症状を軽減させたり解消させたりすることも可能です。高齢者一人一人の心身状況を再度正確にアセスメントすることで行動・心理症状を軽減させるなどして、身体拘束を必要としない状態をつくるようにめざします。

                4.事故の起きない環境を整備し、柔軟な応援体制を確保する

                身体拘束を廃止することで懸念される転倒などが原因で発生する事故の防止策を考えます。例えば転倒、転落などで発生する事故を起きにくくするために、手すりの設置や足元に物を置かないようにするなどの転倒、転落防止を目的とした環境整備もありますし、転倒、転落しても怪我にならないようにベッドの高さを低くすることや、床にクッションを置くなどの整備も有効です。

                次にスタッフ全員での協力体制も重要です。行動・心理症状がどうしても治まらないときなどは時間、曜日を問わず事業所内の全スタッフが随時応援に入れる体制を準備しておくなどの柔軟な応援体制を確保することも必要になります。

                5.常に代替的な方法を考え、身体拘束するケースは極めて限定的にする

                現在介護保険法で認められている身体拘束は

                「生命または身体を保護するため緊急やむを得ず」「他に有効な手段がなく」「一時的に」という3つの条件がそろった場合にのみ認められています。但しこの3つがそろったら拘束することが良いということではありません。基本的に身体拘束は禁じられていることを認識しておかなければなりません。常に身体拘束せずに他の手段で対応することを考えなければいけませんし、そもそもこの3つの条件がそろうような事態にならないよう取り組んでいくことが必要です。

                身体拘束をせずに行うケア  3つの原則

                身体拘束をせざるを得なくなる原因がわかれば、この原因を解消してケアすることで身体拘束しなくてよくなります。どうすればこの原因を特定したり、日常のケアをするうえでこの原因を作らなくしたりしてより良いケアをしていくことができるようになるかを考える上で大切になるのが次の3つです。

                1.身体拘束を必要とさせる原因を探り解決する

                迷惑行為、危険行為、自傷行為、体位保持困難が身体拘束を必要とする原因の主なものとしてよく挙げられます。これらはその人なりに必ず理由があり行っているものなのでケアする側の関わり方や環境を変えることで軽減や解消することができます。改めてその人に対するアセスメントを行うことが大切です。

                2.5つの基本的ケアを徹底する

                基本的なケアを充実させて生活のリズムを整えることが重要になります。「起きる」「食べる」「排泄する」「清潔にする」「活動する」の5つの基本的ケアを、その人にあった形で充実させます。

                3.身体拘束廃止をきっかけに「よりよいケア」を実現する

                これらの取り組みにより身体拘束廃止をすることは事業所のケア全体の質向上や利用者の生活環境改善につながります。身体拘束廃止ができたからといって、これらの取り組みを終了するのではなく、常にこの取り組みを継続していくことで日々新たに提起されている高齢者の尊厳を守るためにも、よりよいケアの提供につながる検討と実践をおこなっていきます。


                具体的な行為ごとの工夫のポイント

                1.徘徊しないよう車いすやいす、ベッドにひも等などで縛る

                A)徘徊の原因を探り対応する

                徘徊する原因を探ります。一例として、本人が認識している「自宅」に帰るために

                徘徊し始める様であれば、一緒に馴染みの家具の手入れをしたり、語りかけたり

                することで本人が感じている「さみしさ」を軽くすることも有効です。

                一緒に歩きながら話をするのも良いでしょう。疲れる前にお茶に誘うなどで本人が

                納得して歩くことをやめるような工夫もします。

                B)徘徊による転倒をしても骨折やケガをしない環境整備をする

                徘徊する場所の床からつまづきなどの原因となりそうなものを取り除きます。

                カーペットなどの敷物があればキチンと固定しておきます。

                可能であれば手すりの整備や必要箇所の照明は常時点灯しておき歩きやすい環境を

                整えます。床面をクッションフロアーなどの弾力性あるものにして万一の転倒時の

                衝撃を最小限に留めることも有効です。

                C)見守り強化するなどして常に本人に関心を寄せる

                徘徊している様子を随時確認して転倒の危険を感じたときはすぐ付き添うことや

                時々声掛けするなどします。このとき遠くから呼びかけるような声掛けをすると

                驚いたり振り向いたりしたことをきっかけに転倒することもありますので、必ず

                そばに寄り添ってから声をかけるようにします。

                2.脱衣やおむつ外しを制限するためにつなぎ服を着せる

                A)おむつに頼らない排泄を実現する

                排泄のサイン、排泄タイミング、失禁状況などを確認し、適宜トイレ誘導します。

                B)脱衣やおむつ外しの原因を探り解消する

                肌着がごわごわしていたりして着心地が良くないか、排泄によりおむつをつけている

                ことでの不快感がないかなどの原因を探ります。

                肌着の着心地が原因ならば快適なものに変えることで対応したり、おむつの不快感

                が確認できたのであれば、おむつに頼らない排泄を試してみたり、排泄パターンに

                あった適切なおむつ交換を行うことも有効です。

                C)かゆみや不快感を取り除く

                皮膚状態を確認し、必要に応じて内服薬や塗り薬を使用してかゆみを取り除きます。

                入浴後に保湿クリームを使うことも有効です。

                D)ほかに関心を向けるようにする

                かゆみや不快感に意識が向きにくくするように、アクティビティで気分転換を図る

                ことで解決をめざします。本人の状況を見守り不快感やかゆみに意識が向き始めて

                いると思われるときには、本人が興味を示す話題などの語り掛けを行うなどして

                他の事に意識が向くように取り組みます。

                緊急やむを得ない場合の対応

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