まず2021年4月介護報酬改定の全体改定率から確認します。今回の全体改定率はプラス 0.7%、うちコロナ対策のプラス 0.05%は2021年9月までの次元的措置であるため、実質0.65%のプラス改定といえます。
次回2024年の医療・介護同時改定ではさらなる大改革が行われることが予想されており、2021年の介護報酬改定は次期の大改定に向けたエッセンスが多数ちりばめられています。
今回の改定を一言でまとめると、求められるのはパラダイムシフト。今までの考え方や価値観などの革命的・劇的変化への対応が必要になってきます。
次に、報酬改定の全体像をおさらいします。以下の5つの柱に基づいて報酬改定がすすめられています。
(1)感染症や災害への対応力強化 (2)地域包括ケアシステムの推進 (3)自立支援・重度化防止の取組の推進 (4)介護人材の確保・介護現場の革新 (5)制度の安定性・持続可能性の確保
これら5つの柱は2024年にむけて継続的に審議されることが予測されているため、それぞれの改定内容がこの5つの項目のどこに紐づいているか改めて整理しながら考えていきましょう。
ここからは、居宅介護支援について、今回の報酬改定により取り組みが必要になってくる内容について見ていきたいと思います。
居宅介護支援で取り組みが必要な内容は、14項目あります。業界の時流や方向性を意識しながら読み解き把握していきましょう。
まずは、認知症に関する取り組みの情報公表についてです。
認知症対応力の向上と利用者の介護サービスの選択に資する観点から、研修の受講状況など、認知症に関する事業者の取組状況について、 介護サービス情報公表制度 において公表することが求められました。
具体的には、「介護サービス情報の公表」制度で使用される、別添1の基本情報調査票において、「3.事業所において介護サービスに十字する授業者に関する事項」の枠内に、
の欄を設け、研修の受講人数を入力するように考えられているようです。
次に、ターミナルケアマネジメント加算については、算定要件において、 「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」 などの内容に沿った取り組みが求められることになりました。
「人生の最終段階における医療・ケアの方針の決定手続き」のうち、
双方の対応の違いなどを把握するため、事業所内で研修などを行い、ガイドラインに沿った取り組みが行えるようにする必要があります。
退院・退所加算については単位数の変更はありませんが、退院・退所時のカンファレンスについては以下の算定要件の変更があり、以下の記載が追加されました。
退院・退所後に福祉用具の貸与が見込まれる場合は、必要に応じ、福祉用具専門相談員 や居宅サービスを提供する作業療法士等が参加するものとする。
ケアマネジメントの公正中立性の確保を図る観点から、介護サービス情報公表制度の活用が求められています。
具体的な手順は、
を、利用者に説明を行うとともに、介護サービス情報公表制度において公表することが求められます。
また、利用者への具体的な説明方法として、 令和3年度介護報酬改定Q&A(Vol.3) 問111には、「重要事項説明書等に記載し、各事業所の割合等を把握できる資料を別紙として作成し、居宅介護支援の提供の開始において示すとともに説明することが考えられる」とされています。
質の高いケアマネジメントの推進の中で、特定事業所加算の見直しについても触れられています。
見直し内容については、下記の3点が挙げられています。
特定事業所加算の単位数については、それぞれプラスの改定となっています。
特定事業所加算(IV)は特定事業所医療介護連携加算に名称が代わりましたが、月125単位の単位数には変更ありません。また、算定要件の内容も特定事業所加算(IV)と同じ内容で変更はありませんが、改めて算定要件を把握しておきましょう。
上記は、特定事業所加算の算定要件の要約表です。今回の改定のポイントとして3つのポイントを再確認しておきましょう。
現在特定事業所加算を算定できていない事業所は、改めてこの一覧表を見て、どの要件をクリアすることで特定事業所加算が算定可能になるのかを明確にしておく必要があるかと思います。
逓減制の見直しについては、一定のICT(AIを含む)の活用または事務職員の配置を行っている事業者に対する、逓減制の適用を45件以上の部分からとされました。
このことから、事業所として、利用者の受け持ち件数を現状の40名未満とするのか、45件未満と増やしていく方向性を取るのかを明確にする必要があります。また、40件以上の利用者を持つ場合には、職員に給与面でのインセンティブを付けるなどの工夫が必要になってくるかもしれません。
逓減制の見直しに関するQ&Aについて少し見ておきましょう。
令和3年度介護報酬改定Q&A(Vol.3)の問115には、具体的な情報通信機器について触れられています。
事業所内外や利用者の情報を共有できるチャット機能のアプリケーションを備えたスマートフォンや訪問記録を随時記載できる機能を備えたソフトウエアを組み込んだタブレット等とする。
これらの解釈から、例えば、カイポケのケアマネタブレットもこれらに該当すると考えられます。
また問 116には、事務職員の業務内容についても触れられています。
事務職員の配置にあたって、基準第 13 条で定める介護支援専門員が行う直接的なケアマネジメント業務の他に、ここで定めるような、間接的なケアマネジメント業務も対象とする。
内容を把握し、後々の職員間でのトラブルを回避する為にも、事務職員の業務内容を明確化しておく必要があります。
通院時情報連携加算は、今回の改定で新設されました。
加算の算定要件は、
これらを行うことで、月に1回を限度として、通院時情報連携加算 50単位を算定することができます。
この加算を算定していくためには、
などの作業を習慣化する必要があるのかもしれません。
改定前は、退院時等にケアマネジメント業務を行ったにもかかわらず、利用者の死亡などによりサービス利用に至らなかった場合、基本報酬は算定できませんでした。
しかし、今回の改定では、サービス利用の実績がない場合でも、以下のような一連の流れであれば、居宅介護支援費が算定可になりました。
このため管理者さんは、請求時に請求漏れがないように、このようなケースがないか確認することと合わせて、職員にこうした変更があることを周知する必要があります。
看取り期におけるサービス利用前の相談・調整等に係る評価に関するQ&Aについても、少し見ておきましょう。
令和3年度介護報酬改定Q&A(Vol.3)問119には、請求方法について触れられています。
退院時等にケアマネジメント業務を行ったものの利用者の死亡によりサービス利用に至らなかった場合の具体的な請求方法は以下の通りです。
委託連携加算は、地域包括センターが委託する個々のケアプランについて、委託時に適切な情報連携などを評価するために新設されました。
算定要件は、利用者1人につき指定介護予防支援を指定居宅介護支援事業所に委託する初回に限られています。
その際に、地域包括支援センターと居宅介護支援事業所との間で、随時情報連携ができていることが前提条件です。委託と請求の具体的な流れは以下の通りです。
今後、団塊の世代が後期高齢者となり、多くの地域で要支援者の数の増加が見込まれています。事業所として、どれくらいの割合で要支援者を受け持つのかを明確にしておくことも事業戦略上必要な視点なのかもしれません。
特例居宅介護サービス費については、地域の実情に応じて把握しておくべき地域と、そうではない地域があります。
ここでは、地域の実情に応じたサービス提供の確保として、
が示されましたので、事業所が所在する地域で該当する場合は、こちらの内容を把握しておく必要があります。
生活援助の訪問回数の多い利用者等のケアプランの検証については、下記のような変更がなされています。
検証の実施については、地域ケア会議のみならず、行政職員やリハビリテーション専門職を派遣する形で行うサービス担当者会議等での対応が可能となりますので、行政機関や関係機関との話し合いを行い、地域での柔軟な対応の仕組みを早期に確立するべきと考えられます。
サ高住等における、訪問系サービス・通所系サービスおよび福祉用具貸与について、「事業所と同一の建物に居住する利用者に対してサービス提供を行う場合には、当該建物に居住する利用者以外に対してもサービス提供を行うよう努めなければならない」という省令改正がありました。
また、サ高住等に居住する者のケアプランについて指導監督権限を持つ自治体による更なる指導の徹底が、2021年10月から施行予定となっていますので、より適正な計画作りが今後ますます求められるようになってきます。
(看護)小規模多機能型居宅介護事業所連携加算については、報酬体系の簡素化の観点や過去の算定実績を踏まえて、廃止されました。
最後に、基本報酬の単位の変更について再確認しておきましょう。
下記のサービス毎に介護報酬改定で取り組みが必要な内容についての研修動画をご用意しています。必要に応じてご視聴ください。
研修17_2021年度介護報酬改定1_サービス共通の報酬改定で取り組みが必要な内容
研修19_2021年度介護報酬改定3_通所介護の報酬改定で取り組みが必要な内容①
研修20_2021年度介護報酬改定3_通所介護の報酬改定で取り組みが必要な内容②
研修21_2021年度介護報酬改定4_訪問介護の報酬改定で取り組みが必要な内容
研修22_2021年度介護報酬改定5_訪問看護の報酬改定で取り組みが必要な内容
株式会社ケアモンスター 代表取締役。社会福祉士・介護支援専門員。1975年生まれ石川県出身。 整形外科(老人保健施設)や脳神経外科等に勤務し、医療ソーシャルワーカーや介護支援専門員として、組織や地域のマネジメント業務に携わりながら、医療経営を学ぶ。 その後、医療法人の理事、MS法人の取締役として、クリニックを中心とした介護事業の立ち上げや運営を行う。 2014年に、コンサル事業・セミナー事業を主に起業。現在は、今の福祉事業の概念を壊しながら、「新しい価値」と「新しい仕組み」を創造する!ということをテーマに活動中。